脂肪由来幹細胞
脂肪由来間葉系幹細胞とは

脂肪由来間葉系幹細胞(以下、脂肪由来幹細胞と呼ぶ)とは、脂肪組織に存在する間葉系幹細胞の一種のことで、多様な細胞に分化する能力を持ちます。
脂肪由来幹細胞は骨、軟骨、筋肉、神経など、さまざまな組織の再生に寄与する可能性があるため、再生医療の分野で注目されています。
特に脂肪組織は体内で豊富に存在し採取が比較的容易であることから、ADSCsの実用化が進められています。
脂肪由来幹細胞は損傷した組織の修復や炎症の抑制に有用とされ、変形性関節症や脳血管障害、糖尿病などの治療に研究段階で期待されていますが、標準治療には至っていません。自身の脂肪組織から採取するため、拒絶反応や重篤な副作用のリスクが低いとされている点も、この細胞を利用した治療が検討されている理由のひとつです。
ただし脂肪由来幹細胞を用いた治療は、まだ研究段階のものも多く、効果や安全性については今後の検証が必要です。
治療を検討する際は、専門医と十分に相談し、最新の情報を確認しましょう。
脂肪由来幹細胞で期待できる効果
脂肪由来幹細胞は、免疫系を調節・抑制する能力を持ち、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患や関節リウマチなどの自己免疫疾患に対して効果が期待されています。
また新たな血管を形成し、血行を改善することで、動脈硬化症などの血管疾患の治療に寄与する可能性があります。
さらに体内の炎症を抑制し、皮膚の修復や再生に寄与する可能性があり、これが一部のアンチエイジング効果につながる可能性があります。
損傷や機能不全となった組織の修復を助け、失われた組織の再生を促進する可能性も示唆されています。
また炎症を抑制するサイトカインの分泌により、痛みの緩和が期待できます。ADSCs治療による痛みの緩和が報告されていますが、他の治療法との比較については十分な証拠がなく、さらなる研究が必要です。
さらに活性酸素を減少させ、細胞の老化を防ぐ効果が期待されています。
脂肪由来幹細胞のリスク・副作用
脂肪由来幹細胞治療は多くの可能性を秘めていますが、リスクや副作用も存在します。脂肪由来幹細胞治療における主なリスクや副作用は、以下です。
- 塞栓症のリスク
- 感染症のリスク
- 癌化のリスク
幹細胞治療における重大な副作用のひとつに、塞栓症があります。これは、投与された幹細胞が肺の毛細血管で詰まり、肺塞栓症を引き起こす可能性があるものです。
特に品質の低い幹細胞や死滅した細胞が多く含まれる場合、毛細血管内で詰まりやすくなり、塞栓を引き起こす恐れがあります。
このような塞栓が肺の血管で発生すると、呼吸困難や胸の痛みなどの症状が現れ、最悪の場合、致命的な結果を招くことがあります。
幹細胞の採取や投与の過程で、感染症のリスクが伴います。脂肪採取時には、麻酔アレルギーや皮下出血、内出血、筋肉痛、発熱などの可能性があるのです。また、幹細胞の投与時には、アレルギー反応や投与部位の違和感、軽度の発熱が報告されています。さらに極めて稀ではありますが、血液凝固能の異常や肺塞栓が発生することもあります。
脂肪由来幹細胞は、iPS細胞やES細胞と比較して、癌化のリスクが低いとされています。しかしまったくリスクがないわけではなく、長期的な安全性については引き続き研究が必要とされています。
幹細胞治療後の軽度な副作用(発熱や発疹など)はまれに報告されていますが、静脈内投与では塞栓症などの重篤な副作用のリスクもあるため、注意が必要です。
脂肪由来幹細胞治療は、多くの可能性を持つ再生医療の一つですが、上述したようなリスクや副作用が存在します。